出願経過を踏まえた請求項の内容解説

出願経過を踏まえた請求項の内容解説

登録された特許の内容を正確を把握するためには、特許請求の範囲の記載だけでなく、明細書の定義や、特許庁審査官とのやり取り(出願経過)を考慮する必要があります。
特に、審査段階で拒絶理由を解消するために行った「補正」や「意見書」での主張は、権利範囲を解釈する重要な手がかりとなります。
この事例は、これらの情報を総合的に分析し、「最終的に特許がどのような範囲をカバーしているか」を解説させるものです。

Warning
本事例による出力結果は、生成AIによる分析であり、不正確な情報が出力されることがあります。
あくまで補助やスクリーニングとして利用し、重要な判断を行う際は、必ず弁理士等の専門家による精査を行ってください。

事例で使用する対象特許

JP7695653B

分析設定

「新規分析設定(β版)」を選択し、以下指示文を入力します。

<指示文>

請求項の内容を把握したい対象特許:JP7695653B

以下のステップで、特許請求の範囲の【請求項1】の権利範囲の内容を解説してください。

ステップ1
文言の特定と明細書の参酌: まず、請求項の文言のみから構成要件を特定してください。次に、明細書の記載を参酌し、各構成要件の文言が具体的にどのような意味内容(技術的範囲)を持つのかを定義してください。なお、明細書の記載を参酌する場合には、【発明を実施するための形態】や【実施例】等と記載された項目の内容を優先的に参照してください。

ステップ2
出願経過の分析: 拒絶理由通知に対して、出願人が意見書でどのような主張をし、補正書で請求項をどのように変更(特に限定・減縮)したかを分析してください。

ステップ3
解釈の限定(最重要): ステップ2の分析に基づき、出願人が審査官の拒絶理由を回避するために、意識的に除外したと認められる範囲、または特定の解釈を放棄したと認められる主張を特定してください。

ステップ4
結論: ステップ1(明細書の参酌)およびステップ3(解釈の限定)を踏まえ、請求項の技術的範囲(特に解釈が問題となる構成要件)は、最終的にどのように解釈されるべきか、その結論と根拠を明確に述べてください。

出力形式

「テキスト形式」を選択してください。



<分析対象設定>

「ユーザーデータ」を選択します。
今回の事例では、特許文献以外の審査経過書類(意見書・補正書)が必要となるため、ユーザーデータを使用します。

<AIモデル設定>

「gemini-2.5-pro」を選択します。
今回は、10件の先行文献の明細書全文を生成AIに読み込ませる必要があり、geminiシリーズは、最大入力トークン数(入力文字数)が多いためです。

対象設定

PDFインポートを選択して、以下のPDF書類をインポートします。
今回の事例では、2回の拒絶理由通知が発送されているため、2通分の書類をインポートしています。
・本願特許PDF ※指示文冒頭の「請求項の内容を把握したい対象特許:JP7695653B」で入力した番号と同じ番号を入力してください。
・拒絶理由通知書
・意見書
・補正書


<対象設定>

追加件数は、デフォルト設定「10」のままで問題ありません。
今回は合計8件のファイルをインポートしているため、8以上の数字を指定する必要があります。

出力結果

特許JP7695653B【請求項1】の権利範囲の解説

特許第7695653号の請求項1に係る発明の権利範囲について、以下の通り解説します。

ステップ1: 文言の特定と明細書の参酌

(1) 請求項1の構成要件の特定

請求項1の文言を分解すると、以下の構成要件からなる「ステント」の発明であることがわかります。

  • A) 用途・留置方法: 自己拡張性を有することで、血管壁に圧着させて脳動脈瘤をまたぐように留置される。
  • B) 特性: 生体吸収性を有する。
  • C) 基本材料: Mgを90原子%以上含有するマグネシウム合金又は純マグネシウムからなる。
  • D) 構造:
    • D-1) 線材の組み合わせ: 以下の2種類以上の線材で構成される。
      • 線材α: Mgを90原子%以上含有するマグネシウム合金又は純マグネシウムからなる線材。
      • 線材β: 線材αとは異なる組成からなり、且つMgを90原子%以上含有するマグネシウム合金からなる線材。
    • D-2) 構成態様: 上記D-1の2種類以上の線材で、以下のいずれかの態様で構成される。
      • 態様1: 編み込まれた筒状の編組体。
      • 態様2: クロスコイリング、パラレルコイリング又はコイリングされて構成。

(2) 明細書の参酌による各構成要件の定義

明細書の【発明を実施するための形態】等の記載を参酌し、各構成要件の技術的な意味内容を定義します。

  • A) 用途・留置方法について: 本ステントは、血管の狭窄・閉塞部位を拡張する一般的なステントとは異なり、脳動脈瘤の治療に特化しています。その目的は、脳動脈瘤への血流を制限することにあり、血管壁に圧着できる程度の自己拡張性を有していればよいとされています(段落【0007】)。

  • B) 特性(生体吸収性)について: 脳動脈瘤の治療が完了した後に、ステントが生体に吸収されることで、ステントが体内に異物として残存することによる患者の負担(継続的な投薬等)を軽減することを目的としています(段落【0002】)。

  • C) 基本材料について: ステント全体が、生体適合性に優れるマグネシウム(純Mg)またはMgを主成分(90原子%以上)とするマグネシウム合金で構成されることを意味します(段落【0007】)。

  • D) 構造について: 本願発明の最も特徴的な部分です。

    • D-1) 線材の組み合わせ: ステントが、組成の異なる2種類以上のマグネシウム系線材(いずれもMg含有量は90原子%以上)を組み合わせて作製されることを規定しています。例えば、組成が異なる2種類のマグネシウム合金線材の組み合わせや、純マグネシウム線材とマグネシウム合金線材の組み合わせがこれに該当します(段落【0007】)。
    • D-2) 構成態様: これらの複数の線材を用いて、図1に示すような「編組体」を形成するか、図3(パラレルコイリング)、図14(クロスコイリング)等に示すようなコイル構造を形成することを意味します。

ステップ2: 出願経過の分析

本特許の権利範囲を確定する上で、出願経過における拒絶理由通知への応答が重要な意味を持ちます。

  1. 最初の拒絶理由通知と応答:

    • 審査官の指摘: 出願当初の広い請求項(単一のMg系材料からなるステントを含む)は、引用文献1(US2019/0240050A1)に記載された「純マグネシウムからなる生体吸収性ステント」と同一または容易に想到可能であるとして、新規性・進歩性がないと指摘されました。
    • 出願人の応答: この拒絶理由を回避するため、出願人は単一の材料からなるステントを対象とする広い請求項を削除しました。そして、新たに**「組成の異なる2種類以上のMg系線材で構成される」という限定を加えた請求項を、独立請求項1として提出**しました。
  2. 2回目の拒絶理由通知と応答:

    • 審査官の指摘: 補正後の従属請求項(コイル塞栓用ステントやフローダイバーター用ステントを規定する請求項)の引用関係が不明確であるという、記載要件に関する指摘がなされました。
    • 出願人の応答: 指摘に従い、従属請求項の引用関係を整理する補正を行い、この拒絶理由は解消されました。

ステップ3: 解釈の限定(最重要)

ステップ2の出願経過の分析、特に最初の拒絶理由への応答から、以下の点が明らかになります。

  • 意識的に除外した範囲: 出願人は、引用文献1に記載された発明との重複を避けるため、「単一の組成からなるマグネシウム合金または純マグネシウムのみで構成されたステント」を権利範囲から明確に除外しました。

  • 放棄した主張: 「生体吸収性のMg系材料からなる脳動脈瘤用ステント」という広い概念そのものに特許性があるとの主張を放棄し、「組成の異なる2種類以上のMg系線材を組み合わせる」という特定の構造にこそ発明の核心があることを認めた上で、権利化を図っています。

この出願経過は、権利解釈において「禁反言の原則(包袋禁反言)」の根拠となります。すなわち、一度権利範囲から除外した、あるいは放棄した技術的範囲を、後から再び権利範囲に含むと主張することは許されません。

ステップ4: 結論

以上のステップ1(明細書の参酌)およびステップ3(出願経過に基づく解釈の限定)を踏まえ、特許第7695653号の請求項1の技術的範囲は、最終的に以下のように解釈されるべきです。

  • 結論: 本特許の請求項1の権利範囲は、「組成が異なる2種類以上のマグネシウム系線材(いずれもMg含有量が90原子%以上)を組み合わせて構成された、脳動脈瘤治療用の生体吸収性ステント」に限定されます。

  • 根拠:

    1. 文言および明細書の記載: 請求項1の文言は「異なる組成からなる」2種類以上のMg系線材を用いることを明確に規定しており、これが発明の基本的な構成です。
    2. 出願経過(禁反言の原則): 出願人は、審査過程で新規性・進歩性欠如の拒絶理由を回避するために、「単一材料からなるステント」を権利範囲から除外し、「異なる組成のMg系線材の組み合わせ」という構成に限定する補正を行いました。 この経緯から、この「異なる組成のMg系線材の組み合わせ」という構成要件は、発明の成立に不可欠な本質的部分であり、この要件を欠くステント(例えば、単一組成のMg合金線材のみで作られたステント)は、請求項1の権利範囲には含まれないと厳格に解釈されます。

したがって、Mg系線材とMg系以外の材料(例:ポリマー、貴金属)との組み合わせ(これは請求項3の範囲)や、単一組成のMg系線材のみで構成されるステントは、本請求項1の権利範囲には含まれません。


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