
特許第7695653号の請求項1に係る発明の権利範囲について、以下の通り解説します。
請求項1の文言を分解すると、以下の構成要件からなる「ステント」の発明であることがわかります。
明細書の【発明を実施するための形態】等の記載を参酌し、各構成要件の技術的な意味内容を定義します。
A) 用途・留置方法について: 本ステントは、血管の狭窄・閉塞部位を拡張する一般的なステントとは異なり、脳動脈瘤の治療に特化しています。その目的は、脳動脈瘤への血流を制限することにあり、血管壁に圧着できる程度の自己拡張性を有していればよいとされています(段落【0007】)。
B) 特性(生体吸収性)について: 脳動脈瘤の治療が完了した後に、ステントが生体に吸収されることで、ステントが体内に異物として残存することによる患者の負担(継続的な投薬等)を軽減することを目的としています(段落【0002】)。
C) 基本材料について: ステント全体が、生体適合性に優れるマグネシウム(純Mg)またはMgを主成分(90原子%以上)とするマグネシウム合金で構成されることを意味します(段落【0007】)。
D) 構造について: 本願発明の最も特徴的な部分です。
本特許の権利範囲を確定する上で、出願経過における拒絶理由通知への応答が重要な意味を持ちます。
最初の拒絶理由通知と応答:
2回目の拒絶理由通知と応答:
ステップ2の出願経過の分析、特に最初の拒絶理由への応答から、以下の点が明らかになります。
意識的に除外した範囲: 出願人は、引用文献1に記載された発明との重複を避けるため、「単一の組成からなるマグネシウム合金または純マグネシウムのみで構成されたステント」を権利範囲から明確に除外しました。
放棄した主張: 「生体吸収性のMg系材料からなる脳動脈瘤用ステント」という広い概念そのものに特許性があるとの主張を放棄し、「組成の異なる2種類以上のMg系線材を組み合わせる」という特定の構造にこそ発明の核心があることを認めた上で、権利化を図っています。
この出願経過は、権利解釈において「禁反言の原則(包袋禁反言)」の根拠となります。すなわち、一度権利範囲から除外した、あるいは放棄した技術的範囲を、後から再び権利範囲に含むと主張することは許されません。
以上のステップ1(明細書の参酌)およびステップ3(出願経過に基づく解釈の限定)を踏まえ、特許第7695653号の請求項1の技術的範囲は、最終的に以下のように解釈されるべきです。
結論: 本特許の請求項1の権利範囲は、「組成が異なる2種類以上のマグネシウム系線材(いずれもMg含有量が90原子%以上)を組み合わせて構成された、脳動脈瘤治療用の生体吸収性ステント」に限定されます。
根拠:
したがって、Mg系線材とMg系以外の材料(例:ポリマー、貴金属)との組み合わせ(これは請求項3の範囲)や、単一組成のMg系線材のみで構成されるステントは、本請求項1の権利範囲には含まれません。